こんにちは。無地T評論家歯ゲタカです。
今回は、ちょっと真面目な話をします。
いや、いつも真面目じゃないみたいな言い方になっていますが、今回は本当に真面目です。
歯科医院で働いていると、たまに、
「ん?それってあなたが判断していいことなの?」
と思う場面があります。
そして最近は、これがSNSでも気になる。
患者と思しき人が、
「歯が痛いんですが、これは虫歯でしょうか?」
「この歯、抜いた方がいいですか?」
「歯茎が腫れているんですが、どうしたらいいですか?」
などと、実際に歯科で困っていることを質問している。
そこに対して、
「それは○○ですね」
「それなら放置で大丈夫です」
なんて答えている人を見かけることがあります。
もちろん、その人が歯科医師なのか、歯科衛生士なのか、歯科助手なのか、それとも歯科とは無関係なのか。
それはケースによって違います。
でも、私が今回言いたいのは、
「そのアドバイス、本当に責任を持って言っていますか?」
ということです。
そもそも「職域」って何だ?
歯科には、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士、歯科助手など、いろいろな立場の人間がいます。
それぞれ役割が違います。
当然ですが、歯科医師と歯科助手がまったく同じ仕事をするわけではありません。
歯科衛生士にも歯科衛生士としての業務があります。
歯科技工士にも歯科技工士としての業務があります。
つまり、医療の現場には「誰が何をするのか」という線引きがある。
これがいわゆる職域です。
私はこの職域というものを、
「他の職種に仕事を取られないための縄張り」
だとは思っていません。
むしろ、
誰が判断し、誰が実施し、誰が責任を持つのかを明確にするためのもの
だと思っています。
ここ、非常に大事です。
「診査」と「診断」は同じなのか?
例えば患者が来院して、
「この歯が痛いんです」
と言ったとします。
そこで患者の話を聞いたり、口腔内を確認したり、レントゲンなどの検査結果を確認したりする。
そこから、
「この症状は何が原因なのか?」
「どのような病態なのか?」
「どのような治療が必要なのか?」
というところを判断していく。
これが医療です。
ところがSNSでは、投稿者の文章だけを読んで、
「それは虫歯です」
「歯周病です」
「神経が死んでます」
「抜歯ですね」
などと答えてしまう人がいます。
いやいや。
ちょっと待ってください。
あなた、その患者さんの口の中を見ましたか?
レントゲンを見ましたか?
歯周組織を確認しましたか?
必要な検査をしましたか?
それ以前に、その人が書いた文章だけで、本当にそこまで判断できるんですか?
「でも、私は歯科関係者だから」は免罪符にならない
ここは、歯科関係者であればあるほど気をつけるべきところだと思っています。
歯科医療に詳しい人がSNSで発言すること自体は、何も悪いことではありません。
むしろ、正しい知識を発信することには大きな意味があります。
問題は、
一般的な情報提供と、目の前にいない患者への個別判断をごちゃ混ぜにしてしまうこと。
例えば、
「一般的に親知らずが痛む原因としては○○があります」
これは情報提供です。
一方、
「あなたの場合は親知らずが原因ですね。抜いた方がいいですよ」
となると、話が変わってきます。
だって、実際には診ていないわけですから。
もちろん、質問内容からある程度可能性を考えることはできるでしょう。
しかし、
「可能性があります」
と
「あなたは○○です」
では意味がまったく違います。
特に気になるのが「無資格者による職域超え」
そして今回、私が特に書きたかったのがここです。
SNSを見ていると、歯科助手などの無資格者が、患者の個別の症状についてかなり踏み込んだ発言をしているケースがあります。
ここで誤解してほしくないのですが、
歯科助手が歯科について何も知らない
と言っているわけではありません。
歯科医院で長く働いていれば、当然いろいろな知識や経験が身につきます。
毎日のように患者さんを見ていれば、
「この症状はよくあるな」
「こういう患者さんは多いな」
という経験則も蓄積されていくでしょう。
それ自体は素晴らしいことです。
しかし、
知識があることと、その判断を患者に対して行ってよいことは別問題です。
ここを混同してはいけないと思います。
「私は何年も歯科で働いている」は資格ではない
これもSNSでたまに見かけます。
「私は歯科で10年以上働いているので……」
「何百人も患者さんを見てきたので……」
経験はもちろん大切です。
私だって経験を否定するつもりはありません。
でも、
経験年数が職域を決めるわけではありません。
10年働いたから診断できる。
20年働いたから治療方針を決められる。
そういう単純な話ではないでしょう。
むしろ経験が長い人ほど、
「自分が判断していいことなのか?」
を慎重に考える必要があるのではないでしょうか。
そして、私は有資格者にも同じことを言いたい
ここで、
「じゃあ無資格者だけ批判すればいいのね」
と思った方。
違います。
私はむしろ、ここをはっきりさせたい。
有資格者であっても、実際の患者を診察せずに個別の診断や治療について断定的な助言をすることには慎重であるべきです。
歯科医師だから何を言ってもいい。
歯科衛生士だから何を言ってもいい。
そんな話ではありません。
資格は重要です。
しかし、
資格があることと、その場面で適切な判断ができることは別問題です。
そしてSNSの場合、さらに厄介なことがあります。
SNSには「その後」がない
歯科医院なら、

という流れがあります。
ところがSNSでは、
「歯が痛いです」
という投稿に対して、
「それなら大丈夫ですよ」
と誰かが返信した。
投稿主はそれを信じた。
そして、その後どうなったのか。
返信した人には分かりません。
症状が悪化したかもしれない。
別の病気だったかもしれない。
本当はすぐに受診すべき状態だったかもしれない。
それでもSNS上では、
「あのときの私の回答が原因でした」
と追跡されるとは限りません。
しかも、その回答を見ているのは質問した本人だけではありません。
第三者も見ています。
さらにスクリーンショットされるかもしれない。
検索結果に残るかもしれない。
別の人が、
「SNSで歯科関係者がこう言っていたから」
と信じるかもしれない。
つまり、
一人に向けたつもりの発言が、不特定多数への医療情報になってしまう。
これがSNSの怖いところだと思います。
「分からない」と言えることも医療知識
私は、
「分かりません」
と言えることは、医療に関わる人間にとって非常に大切な能力だと思っています。
SNSで質問されたら、
「まずは病院へ」
「その情報だけでは判断できません」
「実際に口の中を診ないと分かりません」
「その症状なら歯科医院で確認してもらった方がいいです」
これでいいじゃないですか。
むしろ、
分からないことを分かったふりして答える方が怖い。
医療では、
「何でも答えられる人」
よりも、
「ここから先は自分では判断してはいけない」
という線引きができる人の方が信頼できる。
私はそう思います。
患者が一番困るのは「間違った安心」
SNSでの医療アドバイスで怖いのは、
間違った恐怖だけではありません。
間違った安心も怖い。
「大丈夫ですよ」
と言われて安心した患者さんが、本当はすぐに受診すべきだった。
これが一番困ります。
逆に、
「絶対に癌です」
「すぐ抜歯です」
などと必要以上に不安を煽るのも問題でしょう。
だからこそ、
診ていないものは診ていない。
分からないものは分からない。
という当たり前の線引きが必要なんだと思います。
職域を守ることは、患者を守ること
ここまで書いてきましたが、私は「歯科助手は何もするな」と言いたいわけではありません。
歯科医院には歯科助手という仕事が必要です。
歯科衛生士も必要です。
歯科医師も必要です。
それぞれの職種が、それぞれの仕事をするからこそ、歯科医療は成り立っています。
だからこそ、
自分の職域を理解すること。
そして、
自分の発言に責任を持てる範囲を理解すること。
これが重要なのではないでしょうか。
特にSNSでは、
「ちょっと知っている」
「現場経験がある」
「歯科関係者である」
ということが、
「患者の病気を判断していい」
ということにはなりません。
まとめ
今回の記事で私が一番言いたいことは、非常にシンプルです。
職域を侵して、無責任なことを言ってはいけない。
そしてこれは、無資格者だけに向けた言葉ではありません。
有資格者であっても、
実際に患者さんを診ていないのであれば、個別の診断や治療について断定的なことを言うべきではない。
むしろここに関して言えば有資格者の方が罪が重いと考えています。
医療に関する発言には、それだけの慎重さが必要だと思います。
特にSNSでは、自分の発言がその場で消えていくとは限りません。
質問した本人だけでなく、その投稿を見た何百人、何千人という人が、その情報を受け取る可能性があります。
だからこそ、
「自分は歯科関係者だから」
ではなく、
「この発言をした結果、患者さんが間違った判断をしたら、自分はその責任を負えるのか?」
と、一度考えてほしい。
そして、負えないのであれば、
「それは実際に診てみないと分かりません」
と言えばいい。
それは逃げではありません。
むしろ私は、
それこそが医療に関わる人間としての責任感だと思います。
知識があるからこそ、言ってはいけないことがある。
経験があるからこそ、越えてはいけない線がある。
そして資格があるからこそ、その言葉の重さを理解しなければならない。
SNSで医療について発信するということは、
「知っていることを好き勝手に喋る」
ということではない。
誰かの健康に影響するかもしれない言葉を発することです。
だから私は、
「それ、あなたが言って大丈夫?」
と思う発言を見かけたら、これからも思うでしょう。
そして自分自身にも、
「その発言、本当に責任を持って言えるか?」
と問い続けたいと思います。
歯ゲタカでした。


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