「歯医者っぽくないね」
これは私が言われると嬉しい言葉の1つである。
もちろん、歯科医師という仕事が嫌いなわけではない。
ただ、私は昔から「歯医者っぽい」という言葉の中に、独特のイメージや空気感が存在している気がしていた。
『歯医者っぽい』とは何なのか。
何が“それっぽさ”を生み出すのか。
今回は、生まれてから今に至るまでの私の経験をもとに、自分なりに『歯医者っぽさ』について考察していこうと思う。
親が歯医者だと必ず言われること
これは間違いなく
「歯医者だからお金持ちなんでしょ?」
だと思う。
実際、生活に困窮したという記憶はない。
両親は自分で建てた一軒家に住み、車も持っているし、私は私立の歯科大学に進学させてもらった。
非常にありがたい環境だったと思う。
ただ一方で、周囲を見れば、もっと大きな家に住み、高級車どころか船を持っている家庭もあった。
毎年海外旅行に行くような生活とも無縁だったし、世間がイメージするような“華やかな金持ち生活”とは、少し違っていた気もする。
ちなみに、この「お金持ちなんでしょ?」という言葉は、子供の頃だけで終わらない。大人になっても繰り返し飛んでくるのだ。
『歯医者っぽさ』
私が初めて、周囲の人間が抱く『歯医者っぽさ』を意識したのは中学生の頃だった。
当時、私の通っていた中学では、給食の時間に生徒のリクエスト曲を流す時間があった。
なぜか曲名だけではなく、リクエストした生徒の学年・クラス・名前まで読み上げられるシステムだった。
その頃の私は深夜ラジオにハマっていて、そこで知った『SNAIL RAMP』というスカパンクバンドをよく聴いていた。
ある日、最新アルバムの曲をリクエストしたところ、昼休みに廊下で他クラスの生徒からこんなことを言われた。
「ああいうの聴くんだ?歯医者の家ってクラシックとか聴くのかと思ってた!」
この時私は初めて、「お金持ち」以外にも、世間には“歯医者らしさ”に対する具体的なイメージが存在していることを知ったのである。
あの時、自身の持っていた歯医者のイメージを素直に伝えてくれたゆうじ君、ありがとう!
ただ、今振り返ると、こうした“歯医者っぽさ”に関する言葉の多くは、純粋な興味だけではなかった気もしている。
「歯医者だから金持ちなんでしょ?」
「歯医者の家って上品そう」
そうした言葉には、時に羨望や距離感、あるいは軽い揶揄のような感情も混ざっていた。
だからこそ、ゆうじ君の「クラシックを聴いてると思ってた」という言葉は、今でも妙に印象に残っている。
あれは恐らく、私が初めて受けた“純粋な歯医者イメージ”だったからだ。
こうして考えてみると、“歯医者っぽさ”には、ある程度共通したイメージが存在している気がする。そこを深掘りしてみたいと思う。
歯医者っぽい“見た目”
漫画に出てきそうなステレオタイプな歯医者のイメージと言えば恐らくこうだ
- 眼鏡
- 綺麗に整えられた短髪
- シャツにネクタイを締め白衣を羽織る
- スラックスに革靴
- どこか恰幅が良い
私服はジャケパンだったりチノパンにセーターでも着ているのだろうか?どこか藤子不二雄作品や手塚治虫作品に出てきそうだ(いささか昭和すぎるだろうか)。
一方、私はと言えば、胸元まで髪を伸ばしていた時期もあった。禿げなければ最終的にドレッドに挑戦したいとも考えていた。
もちろん、医療職である以上、清潔感や信頼感が求められるのは当然だと思っている。
歯医者っぽい“趣味”
- 音楽はクラシックやジャズ
- 週末はゴルフ
- 外国車が好きで、ブランド物に身を包む
- 海外旅行やグルメも好き
世間がイメージする“歯医者っぽい趣味”とは、恐らくこんなところだろうか。
しかし、ここで一つ疑問が生まれる。
それは、本当に「歯医者特有の趣味」なのだろうか?ということだ。
むしろこれは、“ある程度お金を持った人間に対するイメージ”なのではないだろうか。
実際、私が歯学部に入り、歯科医師として様々な同業者と関わるようになってからは、そのイメージはかなり崩れていった。
クラシックよりロックやメタルを好む者。
車なんて走ればいいと考える者。
ファッションよりオタク趣味に全力を注ぐ者。
酒、ギャンブル、風俗が大好きな者。
実に多種多様である。
むしろ私は、高尚さや優雅さよりも、“妙に人間臭い部分”にこそ、歯科医師らしさを感じることの方が多かった。
なぜ歯医者っぽさが生まれるのか
もちろん、こうしたイメージの全てが完全な偏見というわけでもない。ある時を境に急にゴルフに目覚める歯医者が多いのも事実だしね。
実際、歯科医師という職業は、清潔感や信頼感を求められる場面が多い。
開業医であれば経営者としての側面も持つし、ある程度の経済力が可視化されやすい職業でもある。
同業者同士の付き合いや職業文化の中で、ゴルフのような趣味が定着していくのもまた自然な流れなのかもしれない。
つまり、“歯医者っぽさ”というものには、現実をベースに形成された部分も確かに存在しているのだ。
ただ、それは必ずしも個々の人格を正確に表しているわけではない。
結局のところ、“歯医者っぽさ”とは、実在する人格というよりも、
社会が長い時間をかけて作り上げた「イメージの集合体」なのだと思う。
ま、医療職である以上、“安心できそうに見えること”もまた、ある種の仕事なのだろう。我々歯科医師に与えられた役割はちゃんと理解しているし、そう振舞うことは当たり前なのだ。
とはいえ、やっぱり私は「歯医者っぽいね」と言われるのは明確に嫌だし、どうせなら
「なんか古着屋の店員っぽいね」
と言われる方がオシャレな感じがして嬉しい。
これは、イメージというものに対する
「私を見ろ!」
という自分なりの人間臭い小さな反抗なのだ。
ちなみに、こんな“歯医者らしい真面目な記事”もちゃんと書いている。
→市販マウスガードと歯科医院のカスタムメイド、何が違うのか歯科医師が本音で解説!
→歯医者のオルゴールBGMは『怖い』?~現役歯科医師が考える院内BGMの1つの解~
→話題のDAISOの2液性クラフトレジンについて歯科医師が真剣に考察してみた
それではまた。


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