話題のDAISOの2液性クラフトレジンについて歯科医師が真剣に考察してみた

健康

みなさんこんにちは。

以前DAISOの歯ブラシのレビューを行いましたね。今回は別角度からDAISOの商品について触れていきます。

最近レジンクラフト界隈で、DAISOの2液性クラフトレジンが話題になっていますな。

「取り扱いが難しく、安全管理と運用を徹底しないといけない素材。利点よりもまずは危険性を周知すべき。」

というポストから派生して、

「レジンアレルギーで歯の治療ができなくなった人がいた気がする。」「アレルギー発症したら歯の治療が出来なくなる。」

といったポストを見かけるようになりました。

ちょっとこれは余計な勘違いを招く可能性があるな?と思ったので、今回は、クラフトレジンと歯科用レジンの違い、そしてアレルギーのリスクとその対策についてお話ししようと思います。

私自身クラフトレジンの使用経験がありませんので、あくまでも歯科医師として、歯科材料学的観点から、できるだけわかりやすく解説していきます。

歯医者とレジンの関係

ご存じの方もいるかもしれませんが、歯医者では「レジン」というものをよく使います。

歯に詰めてピッと光を当てて固めるあれが思い浮かぶ人もいるかと思います。

あれは光重合型コンポジットレジンと言いまして、歯科医院で使われる治療用の代表的なレジン製品です。

他にも入れ歯の修理や仮歯を作るときに使われる即時重合型レジン、被せものを接着する際に用いるレジンセメントなど、レジンと歯医者は切っても切れない関係にあります。

レジンアレルギー

歯科の現場では古くからレジンアレルギーの存在が取り上げられていました。

レジンが触媒により反応し、硬化することを重合と言いますが、重合していないまたはしきらないモノマーを「未重合モノマー」と言い、これがレジンアレルギーの原因と言われています。

この未重合モノマーに直接触れたり、揮発性の高いモノマーを使用する際に揮発したモノマーを吸い込むことで身体が反応を起こす(感作)ことが多いわけです。

必ずアレルギーが発症するというわけではありませんが、頻度が高かったり一度に扱う量が多かったりするとリスクが上がります。

クラフト用レジンと歯科用レジンの違い

クラフト用レジン

今回話題のDAISOのレジンはエポキシ樹脂系統と言われています。エポキシ樹脂に用いられるモノマーとして代表的なものは

  • ビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE, DGEBA)
  • ビスフェノールFジグリシジルエーテル(DGEBF)
  • アミン硬化剤

などです。これらは強い皮膚感作性や刺激性、揮発性があることが知られており、取り扱いに注意が必要なのはそのためです(換気や手袋、ゴーグルの着用等)

歯科用レジン

一方歯科用レジンに多く用いられるモノマーとしては

  • メチルメタクリレート(MMA)
  • Bis-GMA
  • ウレタンジメタクリレート(UDMA)
  • トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)

などがあります。では、口腔内など粘膜に触れる部分に使用されるため安全なのか、と言われるとそうではありません。感作性や刺激性がちゃんとあります。歯科医療従事者の職業性皮膚炎や呼吸器障害の主要因となっています。

クラフト用だろうが歯科用だろうが、使用されているモノマーはアレルギーや健康障害を引き起こす可能性がある、ということです。

クラフト用レジンでアレルギーが発症した場合、歯科用レジンでも交差感作を引き起こすか?

さて、問題はこれです。

Xのポストでも見かけました。

レジンでアレルギーを発症すると、歯医者で治療が出来なくなる

という内容です。

いわゆる、交差感作(体内でアレルギーの原因物質に感作が成立した後、そのアレルゲンと構造が似ている別の物質にもアレルギー反応を起こしてしまう現象)を引き起こすことを述べています。

結論から言うと

「その可能性はあるが、絶対ではない。」

です。非常に歯切れが悪いですが、どういうことなのか。説明していきます。

一口にモノマーと言っても構造は全く違う

以下に代表的なエポキシ系モノマーとメタクリレート系モノマーの構造式を載せます。

見ての通り、両者はそもそも化学構造が全く違うため、交差感作を引き起こす可能性は低いです。

ですが、いくつかの研究によると

普遍的ではないが、臨床的に交差反応が観察される例があり、パッチテストで両方陽性になる患者も報告されている

としています。

ここで2つの論文を見ていきましょう

Allergic Reactions to Dental Materials – A Systematic Review(Syed et al., 2015

こちらは歯科で使われる様々な材料に対する考察を行っている論文です。

その中でレジン材料に対するアレルギーに触れている項目があります。

そこには、

  • 歯科材料関連のアレルギーでは、メタクリレート系レジンが主要因のひとつ
  • 複数のメタクリレートモノマーに同時に陽性反応を示す患者が多く、これは化学構造の類似性によって起こる「交差感作」もしくは各物質に独立して感作される「多重感作」によるものと考えられる。さらに先行研究(Kanerva et al., 1993, 1998)では、ネイルレジン感作者が歯科用レジンにも反応した症例が報告されている。
  • 特に HEMA, TEGDMA, Bis-GMA など低分子モノマーは皮膚透過性が高く、感作リスクが高い。
  • 交差感作の機序は化学構造の類似性(メタクリレート基)に由来。

要するに:一度「メタクリレート」に感作されると、他の種類のメタクリレート(MMA, HEMA, TEGDMA, BIS-GMA など)にも広く反応することが多い、という結論です。

Contact allergy to epoxy (meth)acrylates(Aalto-Korte et al., 2009, Contact Dermatitis)

こちらの研究は、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物による職業性接触皮膚炎(特に歯科・印刷・電子業界)を調査し、感作パターンと交差反応を分析したものです。

  • エポキシ系モノマー(例:DGEBA, BADGE)とメタクリレート系モノマー(例:glycidyl methacrylate, Bis-GMA)との間で 臨床的に同一患者が両方に陽性を示すケース が報告されている。
  • 著者らは、これは「交差感作」と「同時曝露による多重感作」の両方の可能性があると考察。
  • 化学的には エポキシ基とメタクリレート基は異なる反応部位を持つため、厳密な意味での交差反応性は限定的だが、グリシジル基を持つメタクリレートモノマー(glycidyl methacrylate, GMA など)はエポキシ構造を含むため、交差感作の可能性が高いとされる。
  • 実際に GMA に感作した患者がエポキシにも反応する事例が報告されている。

要するに:「通常のメタクリレート」と「典型的エポキシ(BADGEなど)」は交差感作しにくいが、グリシジル基を含む“エポキシメタクリレート”は橋渡し的存在で、両方に反応しやすい という結論です。

これらをまとめると

  • メタクリレート同士は交差感作しやすい(高頻度)。
  • エポキシ系とメタクリレート系は基本的に別物だが、「グリシジルメタクリレート」などハイブリッド構造のものを介して交差する可能性あり。
  • 臨床的には「両方に陽性」となる患者が実在するが、それが純粋な交差反応か、多重曝露による感作かは症例ごとに異なる。

つまり、

エポキシ樹脂系クラフトレジンでアレルギーが発症すると、歯科においてレジンを用いた処置すべてが出来なくなってしまう、と結論付けることはやや早計であると言えます。

結論

エポキシ樹脂系クラフトレジンでアレルギーが発症した場合、歯科材料に使用されているモノマーの種類によっては治療の「制限を受ける」可能性がある。

このようになるかなと思います。

対策

私は冒頭でも述べたようにクラフトレジンの使用に関しては全くの素人なので、こちらの使用上の注意に関しては詳しく述べません。クラフトレジンは歯科材料とは異なり、家庭向け製品の安全基準や推奨使用条件が異なります。
使用時は必ずメーカーの注意書きに従い、換気・保護具の装着などを十分に行うようにしてください。

歯科治療に際して(歯科医師としての注意点)

基本的に歯科治療でレジンを使用する際、患者の口腔内に触れる未重合モノマーの量はごく少量のはずですが、すでに感作されている場合には注意が必要になります。

  • 操作環境に注意する。
  • マスク、グローブ、眼鏡を着用する。
  • 未重合モノマーをなるべく残さないようにする。レジンを完全に硬化させる。
  • 初診時医療面接で既往歴(レジンによるアレルギーの既往)の聞き取りをしっかりと行う。

特に最後の既往歴の確認はしっかりと行いましょう。

歯科治療に際して(患者としての注意点)

患者として歯科治療を受ける際にも、もしレジンアレルギーがある場合には、しっかりと歯科医師に伝えてください。

感作リスクが疑われる場合は パッチテストでどのモノマーに陽性かを確認するのも良いでしょう。

最後に

歯科医師としての見解をまとめると、
「レジン=危険」と一括りにするのではなく、それぞれの化学的背景を理解し、正しく扱うことが何より大切だと思います。
クラフトも歯科も、素材を知ることが安全への第一歩ですね。

歯科治療に関しては、何か心配があればかかりつけ歯科医に迷わず相談してください。解決の一助となってくれるはずです。

それではまた。

あ、もしこの記事に何か間違いを見つけましたらご指摘お願いいたします。

参考文献

Kanerva L, et al. Cross-reactions and multiple sensitizations caused by acrylates and methacrylates. Contact Dermatitis. 1993;29(5):257–264; 1998;39(5):261–268.

Syed M, et al. Allergic Reactions to Dental Materials – A Systematic Review. J Clin Diagn Res. 2015;9(10):ZE04–ZE09.

Aalto-Korte K, et al. Contact allergy to epoxy (meth)acrylates. Contact Dermatitis. 2009;61(5):262–270.

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